がん治療を受ける中で、多くの人が直面する悩みのひとつに「外見の変化」があります。
抗がん剤による脱毛、放射線治療による皮膚の変化、手術による傷あとなど――これらは身体的な問題であると同時に、心にも深い影響を与えます。
そんなときに支えとなるのが「アピアランスケア(Appearance Care)」です。
本記事では一般論をもとに、「アピアランスケアとは何か」「なぜ大切なのか」「どんなサポートが受けられるのか」をわかりやすく解説します。
1. アピアランスケアとは?
「アピアランス」とは英語で“外見”を意味します。
つまりアピアランスケアとは、がんやその治療によって外見が変化しても、自分らしく快適に生活できるよう支援するケアのことです。
専門家監修情報では、「外見の変化によって“自分らしくない”と感じたり、人前に出ることをためらったりする患者さんに対し、気持ちを楽にし社会とのつながりや治療意欲を保つことを目的とした支援」と定義されています。
このケアは医師・看護師・薬剤師・臨床心理士・美容師など多職種で行われる場合もあれば、患者本人や家族が正しい情報を得て実践することもできます。
2. 外見の変化がもたらす影響
抗がん剤や放射線治療では、
- 脱毛(頭髪・眉毛・まつ毛など)
- 皮膚の乾燥や色素沈着
- 爪の変色や割れ
- 手術痕や体型の変化
などさまざまな外見上の変化が起こります。
これらは身体的には一時的なものでも、「鏡を見るたびにつらい」「人目が気になる」「病気だと知られたくない」といった心理的負担につながります。
その結果、外出や仕事復帰への意欲低下につながることもあります。
こうした心身両面への影響を和らげ、自信や生活意欲を取り戻すために行う支援こそが、アピアランスケアなのです。
3. アピアランスケアでできること
● 医療用ウィッグや帽子の活用
脱毛期には医療用ウィッグや帽子を使うことで安心して外出できます。最近では軽量・通気性重視タイプや自然なデザインの商品も多く、自治体助成制度も整っています。
● メイクアップサポート
眉毛やまつ毛が抜けた際にはアイブロウメイクで表情を整える方法があります。肌トラブルには低刺激コスメを使ったカバーメイク指導も行われています。
● スキンケア・ネイルケア
乾燥肌や爪トラブルには保湿中心のセルフケア指導があります。皮膚科医や看護師、美容スタッフが連携してサポートします。
● 手術後の補整具利用
乳房切除後には補整パッドや専用下着、顔面手術後にはシリコン製補助具などがあります。身体機能だけでなく心理的安定にも寄与します。
4. 専門的サポート体制
全国の多くの病院には「がん相談支援センター」や「アピアランス支援センター」が設置されています。ここでは、
- 医療用ウィッグ試着会
- メイク講習会
- ネイル・スキンケアイベント
などを通じて専門家から直接学ぶことができます。
また、日本サポーティブケア学会では2021年版『がん治療におけるアピアランスケアガイドライン』を発行し、安全で科学的根拠に基づいた支援方法を示しています。
5. 自分らしさを取り戻すために
重要なのは、「以前と同じ姿」に戻すことではなく、「今の自分らしさ」を大切にすることです。
髪型やメイクだけでなく、「好きな服を着て出かける」「人と話す時間を増やす」など、小さな行動一つひとつが回復へのステップになります。
また、患者同士で体験談を共有できる場(患者会)も有効です。「同じ悩みを抱える人がいる」と知るだけでも安心感につながります。
6. 注意点 ― 情報選びは慎重に
インターネット上には「医療用」「がん患者専用」と称して高額商品へ誘導する例もあります。専門家監修情報でも、「高価=高品質とは限らない」と注意喚起されています。購入前には必ず医療者または相談員へ確認しましょう。
まとめ
アピアランスケアとは、「外見」だけでなく「心」を支える医療です。
外見の変化は避けられないものですが、それによって生き方まで制限される必要はありません。
正しい知識と周囲のサポートによって、自分らしい笑顔と生活を取り戻すことは十分可能です。
あなた自身が安心して日常生活を送れるよう、一歩ずつ、自分らしいスタイルで歩んでいきましょう。
それこそが、真の意味で“美しく生きる”ということなのです。















